原発損害賠償責任保険制度というのはどうだろう

自動車損害賠償責任保険、という制度があります。これはいわゆる「自賠責保険」のことでして、自動車(原付を含む)に対して、ごく一部の例外を除き、加入が義務づけられています。この「ごく一部の例外」の内訳は把握していませんが、自衛隊車両がその多くを占めているはずです。自衛隊は、自動車事故程度の(自衛隊全体から見れば)軽い事故に対しては充分な賠償能力がありますから、自賠責保険を免除されている、とむかし勉強しました。

この制度、原発に対しても応用できないでしょうか。

被害は補償する

重大な原発事故による被害をきちんと補償をしようと思えば、それは最終的にはカネの支出を伴います。その金額は事故の規模によって違ってきますが、国家予算に影響を及ぼすレベルの、捻出が困難なほどの額になる可能性があります。最悪の場合に支払えない(恐れがある)のであればあらかじめ保険に入っておき、リスクとその発生確率をもとに適正に算出された保険料を毎年どこか保険会社などに支払い、万一の事故の際には保険金を受け取れるよう備えておくのが自然です。

補償の範囲はあらかじめ決めておきます。放射線量の制限値は法令で決まっているそうなので、それを超えて被爆した場合や、制限値を超えての被爆を避けるため避難した場合に、その程度に応じて保険金を受け取れるよう定めておけば良いように思います。農作物や水産物などの汚染についても同様に制限値があるのでしょうから、それを超えた放射能が検出され出荷ができなくなったときには、その程度に応じて補償をします。政府の仕事は、補償の範囲や金額をあらかじめ明確にしておくことと、万一のときの事故状況把握態勢、避難態勢を決め、実施可能なよう備えておくことです。保険料の算出は、初回はもちろんですがその後も一定の間隔で見直すような契約にします。これを国と発電会社に義務づけたら良いのではないでしょうか。

情報を隠すと不利になる

保険会社はリスクを正確に見積もる必要があるので情報の公開を政府や発電会社に要求するでしょうし、発電会社は保険料を下げたいはずなので様々なリスクを少なくするべく手間をかける動機ができます。原発の安全性が充分に確保できているのであれば、毎年の保険料だってたいして高くはならないはずです。この保険料は基本的には電気代に転嫁するべきでしょう。

カネの手当てができているのだから、想定外の放射能が漏れたからと言って規制値のほうをいじる、などという妙な対応をする必要はありません。事故後に的確な情報を出せず被害が広がれば保険の免責理由になりかねないので、政府や発電会社にとって、正確な情報を迅速に出す動機にもなります。

リスクとベネフィットを見える化できる

原子力・エネルギー勉強会村主進氏の文章 を引用します。

 さて人々は日常生活の中で常にリスクに曝されて生活しているものであるとの認識が薄い。しかし、日常生活は安全であるとの考えは間違いである。我々は日常生活のリスクを現実的に定量的に把握し、リスクをできるだけ少なくし、それによって起こるベネフィットの低下をできるだけ少なくして、差し引き安全な生活を進めなければならない。ここに「ベネフィット」とは、利得とか利便といえば理解できるであろう。

 一方日常生活で「安全」とか「安心」という言葉がしばしば用いられているが、この安全とか安心は人々が情緒的に感情的に把握しているものである。ある人が安心と思っても他の人が安心と思わないことが多々ある。このように物事を情緒的に感情的にとらえていて、理性的に考えなければ、ディベートしても何ら結論が纏まらず平行線のまま推移するだけである。

 このような問題を解決していくには国民は、定量的、理性的に取り扱うことのできる「リスク」で物事を考えなければならないと考える。

村主進氏の判断と私の判断はかなり異なるようですが、上記引用部分に関しては、同感です。

燃料や施設の廃棄コストについてはこの案では考慮の対象外です。これは別途、見積もる必要があります。しかし事故リスクに限定すると、現状よりも正確に「定量的、理性的に」扱えるようになるはずです。

こんな保険、引き受けてくれる会社があるのかどうかはわかりません。素人の思いつきです。でも方向としては、おかしなところは無いつもりなんですが。

どんなものでしょうか。